~自覚症状がなくても、血管は静かに傷んでいます~
高血圧は、日本で最も多い生活習慣病のひとつです 。成人の約2人に1人、およそ4,000万人が高血圧と推定されていますが、良好にコントロールできている方は決して多くありません 。高血圧の難しさは、自覚症状がほとんどないことです 。頭痛やめまいが出ることもありますが、多くの場合、無症状のまま進行し、その間にも血管には負担がかかり続け、動脈硬化が進んでいきます 。
日本高血圧学会では、医学の進歩に合わせて定期的に治療指針の改訂を行っています 。2025年の最新の改訂では、ガイドラインの名称に「管理」という言葉が追加されました 。これは、単に医療機関で治療を受けるだけでなく、患者さまご自身が日常生活の中で主体的に血圧をコントロールする姿勢が重要であるという考えを反映したものです 。
■ なぜ血圧を下げる必要があるのか
血圧を適切な値に保つことは、重大な病気を未然に防ぐことにつながります 。血圧を適切にコントロールすることで、脳出血や脳梗塞といった脳卒中 、狭心症や心筋梗塞 、心不全 、そして最終的な死亡率を下げることが科学的に証明されています 。高血圧は「サイレントキラー(静かなる殺人者)」とも呼ばれますが、今の血圧管理は、10年後、20年後の皆さまが自分らしく自立した生活を守るための大切な備えとなります 。
■ 高血圧の原因:9割の「体質」と1割の「隠れた原因」
高血圧はその原因によって大きく2つのタイプに分けられます 。日本人の大部分を占めるのが「本態性高血圧」で、これは塩分の摂りすぎや肥満、お酒の飲みすぎ、運動不足、ストレスといった生活習慣に、遺伝的な体質が組み合わさって起こります 。
一方で、全体の約10%の方は、他の特定の病気が原因で血圧が上がる「二次性高血圧」に該当します 。これには、睡眠中に呼吸が止まり体に負担がかかる睡眠時無呼吸症候群 、副腎から血圧を上げるホルモンが出すぎる原発性アルドステロン症や褐色細胞腫 、腎臓の血管が狭くなる腎血管性高血圧などが含まれます 。こうした原因がある場合、元の病気を治療することで血圧が改善することがあるため、背景に隠れた原因がないかを評価することは非常に重要です 。
■ 血圧の目標値:2025年の新しい基準
診察室で測定した血圧が140/90mmHg以上の場合、高血圧と診断されます 。今回の改訂では、目指すべき目標値がより明確になり、最新の知見に基づき、現在は年齢や持病にかかわらず、診察室血圧で130/80mmHg未満を目指すという考え方が示されました 。
たとえ診断基準である140/90mmHgに達していなくても、130/80mmHgを超えている場合は「少し高い段階」から管理を始めることが、血管の健康を保つ鍵となります 。
■ 「家庭血圧」の重要性と正しい測り方
診察室では緊張して血圧が上がる「白衣高血圧」や、逆に病院では正常でも自宅で高い「仮面高血圧」があるため、日常生活での「家庭血圧」が非常に重視されています 。家庭血圧の目標値は、診察室よりも厳格な125/75mmHg未満です 。
正確に測定するためには、まず医療機器として承認された上腕式の血圧計を使用することが大切です 。測定前にはトイレを済ませ、椅子に座って1〜2分間、何もせず静かに過ごしてから測るようにしましょう 。測定中は会話を控え、腕を心臓の高さに保ちます 。原則として2回測定し、その平均を記録してください 。
タイミングとしては、朝は起床後1時間以内で、トイレを済ませた後、かつ朝食や服薬の前に行うのが理想的です 。夜は就寝直前の安静な状態で測定してください 。
■ 高血圧の治療:まずは生活習慣の修正から
治療の基本は、まずお薬に頼る前に生活習慣を見直すことから始まります 。減塩については1日6g未満を目標とし 、同時に余分な塩分を出す助けとなるカリウムを野菜や果物から摂取することが推奨されます 。ただし、腎機能に不安がある方や糖尿病の方は、カリウム摂取や果物の量に調整が必要ですので、必ず主治医にご相談ください 。
また、適正な体重を目指して肥満を改善し、お酒を控えめにすることや 、ウォーキングなどの有酸素運動を習慣にすることも効果的です 。バランスの整った食事パターンを心がけ、血管へのダメージを減らすために禁煙に取り組むことも欠かせません 。
こうした生活習慣の修正を行っても血圧が十分に下がらない場合に、患者様に合ったお薬(薬物療法)を検討します 。最新の指針では、高い血圧を長く放置せず、1ヶ月単位で効果を確認しながら速やかに調整を行うことが推奨されています 。
当院では、患者様一人ひとりのライフスタイルや背景にある原因に合わせた血圧管理をサポートしております 。健康診断で指摘を受けた方や、ご自宅での数値が気になる方は、どうぞお気軽にご相談ください 。