背中の痛み
背中の痛みは、日常的に多くの方が経験する身近な症状の一つです。一時的な筋肉疲労や姿勢の乱れによる軽度なものから、命に関わる重大な病気のサインである場合まで、原因は実に多岐にわたります。
なかには、すぐに診断・治療が必要な病気が隠れていることもあり、安易に放置するのは危険です。
ここでは、背中の痛みに考えられる原因をいくつかのグループに分けてご紹介し、当院で行っている診断方法、受診の目安についても解説いたします。
背中の痛みにはさまざまな種類があります
背中の痛みを引き起こす原因は、大きく分けて以下の4つのグループに分類されます。
- 筋骨格系の疾患
もっとも頻度の高い原因は、筋肉や骨格の異常によるものです。
- 長時間のデスクワークやスマートフォンの使用、悪い姿勢が続くと、背中の筋肉が緊張して血流が悪くなり、「鈍い痛み」や「張り」を感じるようになります。
- 急に体をひねったり、重いものを持ち上げた際に筋肉を痛めると、いわゆる「ぎっくり背中」と呼ばれる急性の筋肉痛が起こることがあります。
これらは比較的軽症なことが多いものの、繰り返し起こる場合や長引く場合は注意が必要です。
また、背骨そのものに異常がある場合もあります。たとえば、
- 胸椎椎間板ヘルニア
- 脊柱管狭窄症
- 圧迫骨折
- 馬尾症候群(腰椎の神経の障害)
特に高齢の方では骨粗しょう症が背景にあり、ちょっとした転倒やくしゃみでも骨折してしまうケースがあります。
- 内臓疾患
内臓の病気が背中に痛みとして現れることがあります。これは「放散痛(ほうさんつう)」と呼ばれ、本来の病気の場所とは異なる部位に痛みを感じる現象です。
– 循環器系の疾患
- 狭心症・心筋梗塞
左肩から背中にかけて、締めつけられるような痛みを感じることがあります。胸の圧迫感や息苦しさを伴う場合は要注意です。 - 大動脈解離
突然の激しい背中の痛みが出現します。命に関わる緊急疾患で、迅速な対応が必要です。
– 消化器系の疾患
- 胃潰瘍・胃炎・十二指腸潰瘍
みぞおちの痛みに加え、背中に痛みが及ぶことがあります。 - 胆石・胆のう炎
右上腹部から右肩や背中への放散痛がみられることがあります。 - 膵炎
上腹部から背中にかけて、強い持続的な痛みを感じることがあります。
– 腎臓・泌尿器系の疾患
- 急性腎盂腎炎
発熱とともに、背中を叩くと痛みがあることが特徴です。 - 尿管結石
突然の激痛が背中からわき腹、下腹部へと広がり、非常に強い痛み(七転八倒)を生じます。
- 神経の異常による痛み
- 肋間神経痛
片側の肋骨に沿ってビリビリとした痛みが出ます。深呼吸や体を動かすことで悪化することがあります。 - 帯状疱疹
発症初期には皮疹がなく、ピリピリした痛みだけがあるため、神経痛と区別がつきにくい場合があります。数日後に発疹や水ぶくれが現れます。
- その他の原因
- ストレスや自律神経の乱れ
慢性的なストレスは筋肉を緊張させ、知らず知らずのうちに背部痛を引き起こすことがあります。 - 感染症による筋肉痛
風邪やインフルエンザなどのウイルス感染でも背中の筋肉痛が起こることがあります。 - 重篤な感染症
脊椎に感染が起こると背中に痛みを感じることがあります。椎体炎(骨髄炎)、敗血症性椎間板炎、脊椎の膿瘍などは非常に危険な病気で、早期治療が不可欠です。
当院での診断のながれ
当院では、背中の痛みに対して以下のような流れで診断を進めています。
① 問診と身体診察
痛みの性質、部位、持続時間、関連症状(発熱、吐き気、動悸など)を丁寧に伺います。実際に触診や叩打診を行い、筋肉や骨の異常、内臓の関連痛が疑われる所見を確認します。
② 血液検査・尿検査
炎症反応、肝臓・膵臓・腎臓などの機能を評価します。内臓疾患が疑われる場合に重要な手がかりとなります。尿検査は泌尿器系の疾患を調べるのに重要です。
③ 画像検査
- a) 超音波検査
安全で非侵襲的な検査方法です。消化器系の病気、胆石胆嚢炎、膵炎や、腎臓・泌尿器系の病気、循環器系の病気である心筋梗塞や大動脈瘤、解離などの評価が可能です。
- b) CT検査
詳細な情報を得るための検査です。胆石胆嚢炎、膵炎、腎盂腎炎、水腎症、尿管結石などの内臓疾患の診断が可能です。また、圧迫骨折や脊椎の膿瘍、肋骨骨折などの骨の病変を評価するのに有効なこともあります。
症状や年齢、持病などに応じて、適切な検査を組み合わせて診断を進めていきます。
受診の目安について
以下のような症状がある場合には、速やかに医療機関を受診することをおすすめします。
- 突然、激しい背中の痛みが出た
- 痛みが安静にしていても続く、または時間とともに悪化する
- 息切れ、動悸、胸の圧迫感を伴う
- 発熱、吐き気、食欲不振など全身症状がある
- 痛みが数日以上続いて改善しない
- 高齢者や、心臓病・糖尿病・高血圧などの持病がある方
最後に
背中の痛みは一見軽く思われがちですが、ときに命に関わる病気のサインとなることがあります。
「ただの肩こりかな」「様子を見ようかな」と自己判断せず、気になる症状があれば、ぜひお早めにご相談ください。