呼吸苦(こきゅうく)や息切れは、日常生活に大きな支障をきたすだけでなく、時に命に関わる病気が隠れていることもあります。
「年のせいかな」「疲れているだけかも」と様子を見る方も多いのですが、実は早めの受診が必要なケースも少なくありません。
この項では、呼吸苦・息切れの原因や、当院での診断方法、受診の目安についてわかりやすくご説明します。
呼吸苦・息切れの原因は?
呼吸苦や息切れの原因は多岐にわたります。まずは、重い病気であるかどうかを的確に判断する必要があります。
重い病気の原因として最も多いのが、心臓と肺の病気であり、特に「心不全」「肺炎」「閉塞性肺疾患(慢性閉塞性肺疾患〈COPD〉、気管支喘息)」「肺塞栓」の4つの疾患は、常に念頭に置く必要があります。
次に、頻度は低いものの生命へのリスクが高い病気として、以下の疾患が挙げられます。
- 不整脈
- 急性冠症候群
- 心タンポナーデ
- 気道閉塞
- 大動脈弁狭窄症
- アナフィラキシー
- 気胸
これらの疾患にかかっている場合、多くは救急搬送となりますが、中には当院のようなクリニックを受診される方もいらっしゃいます。緊急性が高いと判断した場合には、速やかに高次医療機関へご紹介いたします。
それ以外の病気については、解剖学的に分類するとわかりやすく、比較的よく遭遇する病気を以下にご紹介します。
- 心臓の病気
心臓は全身に血液を送るポンプの役割を担っています。このポンプ機能に異常が起きると血液の循環が悪くなり、酸素不足を感じて呼吸が苦しくなります。
主な病気
- 心不全:心臓の機能が低下し、全身に十分な血液を送れない状態です。息切れや足のむくみ、倦怠感といった症状が現れます。
- 心臓弁膜症:心臓の弁に障害が起き、本来の役割を果たせなくなった状態です。近年では高齢化に伴い、大動脈弁狭窄症が増加しています。心不全の原因の一つです。
- 急性冠症候群(狭心症・心筋梗塞):心臓の血管が狭くなったり詰まったりして、心筋に血液が届かなくなる病気です。胸の痛みを伴います。
- 不整脈:動悸、めまい、失神を伴うことがあります。心不全や急性冠症候群で起こりやすいです。
- 心タンポナーデ:心臓の周囲に液体がたまり、心臓の動きが妨げられて血液を十分に送り出せなくなる緊急の状態です。放置するとショックや死に至ることがあります。
- 肺の病気
肺は酸素を取り込み、二酸化炭素を排出する役割を担っています。肺に異常があると、十分な酸素を取り込めず息苦しさを感じます。特徴的な症状として、咳や痰、呼吸時のゼーゼー・ヒューヒューという音、発熱や胸痛を伴うこともあります。
主な病気
- 肺炎:ウイルスや細菌による肺の感染症。
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD):タバコの影響などで肺の働きが悪くなる病気。
- 気管支喘息:気道が炎症を起こし狭くなる病気。
- 肺塞栓:血栓が肺の血管に詰まり、呼吸困難や胸痛を引き起こす命に関わる病気。
- 気胸:肺に穴があき、空気が胸腔に漏れて肺がしぼむ状態です。突然の胸痛や呼吸困難を引き起こし、重症の場合は緊急処置が必要です。
- 間質性肺障害:肺の組織(間質)が炎症や線維化により硬くなり、呼吸がしにくくなる病気。進行すると息切れや呼吸不全を引き起こすことがあります。
- 貧血や血液の異常
血液中の赤血球は酸素を体中に運ぶ役割を持っています。貧血になると十分な酸素が運ばれず、息切れを感じることがあります。顔色が青白くなる、動悸、疲労感なども特徴的な症状です。
主な病気
- 鉄欠乏性貧血:鉄分不足により赤血球が減る病気。特に若年女性では生理出血過多により起こりやすいです。
- 悪性貧血:ビタミンB12不足などによる重度の貧血。
- 精神的な要因
強いストレスや不安、パニック障害など、精神的な問題でも呼吸苦を感じることがあります。
深呼吸しても息が足らない感じ、胸が締め付けられるような不快感、動悸や手足のしびれを伴うこともあります。
当院での診断方法
呼吸苦や息切れの原因はさまざまなため、まずは原因を正確に突き止めることが大切です。当院では以下のような流れで診察を進めます。
- 複数の病気の合併を常に念頭に置く
一人の患者さまが、実は複数の呼吸困難の原因を抱えているケースも少なくありません。たとえばCOPDの患者さまであれば、肺炎・気胸・肺塞栓・肺がんなどのリスクが高く、何が原因で悪化しているのかを見極める必要があります。
心不全の患者さまでも、心臓弁膜症や心房細動の出現、または肺疾患の合併によって息苦しさが悪化することがあります。
- 詳しい問診
- いつから症状が始まったか
- どのようなときに息切れを感じるか(運動時、安静時など)
- 他の症状(咳、発熱、むくみ、動悸など)
- 喫煙歴、持病の有無、治療歴(免疫抑制剤の使用など)、職業歴(じん肺など)
特に重要なのが既往歴や危険因子の評価です。たとえば、冠動脈疾患のリスク(高血圧、糖尿病、脂質異常症など)を持っていれば、心不全が疑われます。
最近じっとしていた、手術後、がんの既往、エストロゲン製剤の使用などがある場合は、肺塞栓を疑います。
また、胸痛の有無・性状(胸膜性か否か、急性か慢性か)で、鑑別を狭めることができます。
一方で、発熱や咳などの随伴症状は複数の疾患に共通して見られるため、決め手にはなりにくい点に注意が必要です。
- 身体診察
- 聴診器による心音・呼吸音の確認:心音の異常(第III音の聴取で心不全を示唆)、肺雑音の異常も重要な所見です
- 足のむくみ、皮膚の色などの観察
- 呼吸の速さやリズムの確認
- 頸静脈怒張(心不全・心タンポナーデ・肺塞栓の可能性)
- 検査
必要に応じて、以下の検査を行います。
- 血液検査:貧血、感染、心不全マーカーの確認
- 胸部レントゲン:肺炎、心不全、気胸、肺気腫の有無
- 心電図:急性冠症候群、不整脈の評価
- 心エコー:心臓の動きや弁の状態を詳しく評価
- 胸部CT:レントゲンで分かりにくい病変の確認
こんな症状があれば、早めに受診を!
呼吸苦や息切れは、軽い風邪のような一時的なものから命に関わる重大な病気まで、幅広く関係しています。次のような症状がある場合は、早めにご相談ください。
- 急に息苦しくなった
- 少しの動作ですぐに息切れする
- 横になると呼吸が苦しくなり眠れない
- 胸の圧迫感や痛みを伴う
- 発熱や咳、痰を伴う息苦しさ
- 顔色が青白い、または唇が紫色になっている
特に、症状が急激に悪化した場合や、意識がもうろうとしている、呼吸数が非常に多い場合などは、救急受診が必要になることもあります。
まとめ
呼吸苦や息切れは、日常生活の質を大きく下げてしまうつらい症状です。
「様子を見ていたら悪化した」という方も少なくなく、早期に原因を突き止め、適切な治療を行うことが重要です。