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動脈硬化について

動脈硬化

 

動脈硬化とは、動脈が硬くなった状態を指します。より簡単に言えば、血管の老化です。加齢とともに動脈硬化が進み、その結果、狭心症や心筋梗塞、脳血管障害、大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症などの病気が発症します。

 

人類の歴史の観点から動脈硬化を考えてみましょう。人類が誕生してから数百万年が経過しましたが、わずか200年前まで、先進国である西欧諸国ですら人々は飢えと感染症との闘いに直面していました。当時の寿命は現在よりも短く、動脈硬化により生じる病気はほとんど存在していませんでした。つまり、感染症を克服し、栄養状態が飛躍的に改善した私たちの環境において、動脈硬化は現代病と言えるのです。

 

では、動脈硬化の原因はどのようにしてわかったのでしょうか。19世紀に二人の高名な病理学者が顕微鏡で血管を観察し、Rudolf Virchow博士は動脈硬化には細胞が関与しているとの説を、Carl von Rokitansky博士は血栓からできているとの説を提唱し、その後の研究で、どちらも正しいことが明らかになったのです。20世紀初めには動脈硬化部位では脂質が異常に沈着し、その主成分がコレステロールであると突き止められました。

 

動脈の壁は内膜、中膜、外膜の3層構造になっています。動脈硬化研究の権威であるRoss博士は1976年に、動脈硬化は内膜にある血管内皮細胞が剥がれて起きるという説(Rossの仮説)を発表しました。しかし、1985年には内皮細胞が剥がれるのではなく、その機能が障害されると説を修正しました。1999年には、動脈硬化は内皮障害から始まる一連の炎症反応であるという学説が発表され、現在も概ねそのメカニズムが受け入れられています。

 

第二次世界大戦前後には、西欧諸国で栄養過多による狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患により亡くなる人が多くなっていました。戦後まもなく、米国のフラミンガムという地域の住民を対象に虚血性心疾患の原因を解明するための疫学研究が実施されました。そこで初めて、高血圧、糖尿病、脂質異常、肥満、および喫煙などの要因を持つ人が動脈硬化によりもたらされる心血管病になりやすいことが明らかになりました。これらの生活習慣病や行動が動脈硬化を早めることは今では常識となっています。したがって、生活習慣病の予防が動脈硬化を防止し健康を守るための重要な目標なのです。国も対策に乗り出し、2018年には脳卒中・循環器病対策基本法が制定され、予防の強化が進められています。

 

では、動脈硬化はいつから始まるのでしょうか。不幸にも若くして亡くなった方々の血管を調べた研究から、動脈硬化は10代から始まっていることがわかりました(Strong JP et al., JAMA 1999)。動脈硬化は慢性的な炎症であり、若い頃に始まって加齢とともに進行していくものなのです。

 

食事や喫煙などの生活環境因子の影響も少なくありません。1957年に米国国立衛生研究所(NIH)から発表された研究では、アメリカ人、ハワイ在住の日系人、日本人の3つのグループを追跡調査したところ、心臓死の死亡率はアメリカ人が最も高く、次いでハワイ在住の日系人、日本人の順でした。同じ遺伝的背景を持つ日本人とハワイ在住の日系人では、当時、栄養状態が良い日系人の方が死亡率が高くなっていたのです。これにより、食生活が動脈硬化に重要な影響を与えることが明らかになったのです。また、たばこを吸うとニコチン、一酸化炭素、一酸化窒素、シアン化水素、活性酸素などの有害化学物質が体内に取り込まれます。これらは動脈の炎症や収縮、インスリンの作用も弱めることから、動脈硬化や血栓の形成が進むことも明らかになっています。

 

以上から、動脈硬化を早める生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満)の予防や管理が非常に重要であることが理解できるでしょう。動脈硬化は、現代の医療における主要な研究テーマであり、その予防と治療のために多くの努力が続けられています。病気の理解が進むにつれて、より効果的な治療法や予防策が開発されることでしょうが、まだ道半ばです。現代を生きる私たちは動脈硬化の進行を防ぐために、生活習慣の改善、そしてリスク因子である生活習慣病の予防および管理を継続していくことが求められています。